絹について
絹はあらゆる繊維の中で一番美しいと評される天然繊維です。この繊維に魅せられた人々は数千年も前からシルクロードと呼ばれる道を作っていきました。これは中国からヨーロッパへ絹が運ばれる道のことですが、荒い麻や羊毛しか知らなかったヨーロッパ人にとって、輝くばかりに色鮮やかな絹織物は、羨望の的になったようです。古代ローマでは同じ目方の金と取引されたと言われます。
最近では、絹に近い感覚の化学繊維が数多くなってきましたが、日本では高級な反物と言えば、紬、お召し、小紋、友禅など依然としてすべて絹物です。日本人の絹物に対する愛着がいかに強いかがわかります。ではなぜ、それほどまでに絹は尊ばれる良いものなのでしょうか.
■絹の特徴は、原料にされる繭糸(まゆいと)にあります。
●繭糸は、天然繊維の中でも最も長い繊維を持っているため、多様な織り方が可能です。
織り方によって、たとえば羽二重と縮緬とではその風合いは、異なりますが、いずれも織られた生地は、柔らかく腰があり、吸湿性と放湿性に優れ、美しい光沢を放っています。
草木や化学染料のどちらにも染まりやすく、また、染め上がった生地を着物に仕立て、実際に着てみると軽くて暖かいのが実感できます。
●絹は、繊維その物が、熱を伝えにくい上に、精錬した糸や織物には空気がたくさん含まれています。そのため肌に触れると温かみを感じるのです。
●絹の美しい光沢の秘密は・・・繭糸の構造にあります。
絹糸は、蚕が作り出したタンパク質でできた繊維ですが
その組織は、セリシン(にかわ質)とフィブロイン(繊維)の二重構造で、繊維の断面は、不均一な三角形になっています。
そのため、光が、あたった時に反射角度の違いによって、絹の独特の輝きが生まれてくるのです。
■絹についての関連説明
1,絹は、蚕のはき出したタンパク質で出来た天然繊維です。蚕は、およそ60時間くらいかけて、繭玉をつくります。繭玉から引き出した絹糸は一本につながっていて、驚くことに一つの繭玉から取れる絹糸の長さは、1200〜1500メートルもあります。
2,繭玉は、蚕が成虫に変身するための防護壁(シェルター)。湿度や紫外線から蚕を守るようにできていて、同じ太さでは、鋼鉄と同じ強さと弾力性を備えています。
3,絹は、しなやかさと優雅さを持つ自然界の中では最高の理想的な繊維です。
4,天然成分(タンパク質)なので、そのままでは、虫に食べられるか、一定の期間を経て酸化し、分解・溶解してしまいます。
5,絹にも寿命がありますが、保存の仕方では、数千年の寿命を保てると言われます。
6,蚕は、人間のために命を削って繭を作っているのではありません。人間が勝手に利用しているだけなのです。
7,衣料用にするために生糸は精練します。これは、染色性の向上、肌触りを良くする、真珠のような光沢を出すためです。
8,精錬することによって、セリシンというニカワ質(接着剤・保護剤)を取り除きます。セリシンは、接着剤や保護剤の役目のタンパク質と撥水剤や防虫剤の役目のロウ分、殺菌成分、防カビ成分を含んでいます。
9,セリシンを取り除いた絹タンパク質(フィブロイン)は、染色や最近では、撥水加工、防汚加工が行われます。ただ、タンパク質であるという体質は、変えられません。
10,人類は、絹を手本にして絹を越える繊維を作り出そうとしてきました。例えば、絹繊維の三角構造をまねて作ったポリエステルが代表例。ただし、現在も総合的に絹を越える合成繊維は、ありません。
11,絹は、人体と同じアミノ酸構造を持つ。人間に一番近いタンパク質で出来ています。このため、人間の体にとても優しい繊維です。
12,絹の弱点を補完する手法として採用されているものとして、●繊維の状態で加工するもの、●糸の状態で加工するもの、●織りの段階で混紡や交織するもの,●仕上げで加工するものなどがあります。
■絹の弱点
1,摩擦に弱い。
繊維が、フィブリル構造(極細の繊維素が束になって繊維を作る)をしているため、強い摩擦などで、
繊維が、割れて毛羽立ちが起こり、白っぽく退色(白化)する。
濡れている状態で摩擦すると毛羽立ちや白化がより進む。
シミや汚れの付いた時は、濡れタオルなどでこすることは禁物。
別の布にたたき落とすようにすることが基本。
水染みになりやすいので、アルコール・ベンジンなどの揮発性の高い物を使用することが基本。
2,水ジミになりやすい。
水に濡れると繊維が膨張し、乾燥しても元の状態に戻らないため、シミの跡が残ります。
水染みなどは、業務用の細かい霧状の水を吹き付け部分的に目立たないようにして、手の温度で型にならないように乾かして、生地の布目に沿って引っ張りながら乾かすようにしないといけません。
やはり、業者に頼む方が懸命です。
2,洗濯が難しい。
水洗いをすると、収縮や光沢の消失が起こることがある。
水中でのこすり過ぎによる。
絹の長持ちの秘訣は、洗濯と保管の仕方。
3,シワになりやすい。
できたシワが取れにくい。
しっかりとしたハンガーにかける習慣をつける。
4,直射日光をさける。
紫外線(太陽光・蛍光灯)を吸収して自己分解してしまう。
・黄変、退色
・太陽光の直射日光を避ける。
・窓辺や蛍光灯の下に置かない。
湿度や温度も黄変に関係する。
5,カビの発生や虫食いにあいやすい。
水分を自重の10パーセント以上も保持できるので、湿った部屋やたんすの中の余分な水分までも吸収してしまうので、カビが発生しやすい。
長く保管しておく場合は、ボール紙など紙を下敷きにするのは避ける。
適度な湿度と餌となるタンパク質のため、虫食いにあいやすい。
・除湿剤や殺虫剤を使用する。
・保管前に良く乾燥させ、保管中も時々チェックする。
・晴天時に陰干しし、風をあてる(虫干し)
・密閉性の強い部屋では、時々換気をを心がける。
■絹糸のの原料は、蚕の繭ですが、繭から糸をとる方法によりその呼び方は、異なります。
・生糸(きいと)・・・繰糸機と呼ばれる機械や人の手で繭から直接糸をひいてを作った糸。
・紬糸(つむぎいと)・・・真綿(繭を綿状に平らにのばした物)から手で紡いで作る糸。
・絹紡糸(けんぼうし)・・・繰糸中にできた繭くずなどを用いた糸。
■蚕の種類は、大別して二種類 「家蚕(かさん)」と「野蚕(やさん)」がある。
・家蚕は、室内の飼育に適するように改良された蚕で、桑の葉しか食べません。この繭で作った絹糸が一般的な絹糸です。
・野蚕は、野外でクヌギなどの葉を食べて育つもので、利用されるものには、「天蚕」と呼ばれるものがあります。天蚕糸とか山まゆとか呼ばれるものは、この蚕から紡いだ物です。
*豆知識・・・二頭の蚕が、一つの繭を作った物を「玉繭」といい、2〜3%の割合で自然発生します。この繭糸は、二本の糸が絡むので、普通の糸より丈夫な糸ができるため、牛首紬や白山紬のような頑丈な紬織物の原料になっています。
絹は、殷の時代の古代の中国人が考えた物だと言われますが、4千年も前から養蚕がされていて、綾織りなど高度な絹織物が作られていたとは驚きです。昔の人は、よく蚕の吐き出す細い糸を集めて織物にすることを考えたものですね。
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